防災といえば、非常食など防災グッズの備蓄にばかり目が行っています。地震などの災害は自宅に居るときに起きるとは限りません。会社勤めしている方などは出社から帰宅まで1日の半分は外出しているわけです。確率的にいっても、外出時の防災が気になりますよね。でも何を備えればよいか範囲が広すぎてわかりにくいでしょう?
本記事ではそのような問題意識にお応えして、調査・分析したものをまとめました。今回は通勤(地下鉄)編です。
お読みいただければ、備えるべきものは何かがお分かりいただけると思います。
目次
南海トラフ巨大地震とは?
地下鉄で実施されている自然災害対策
・大阪メトロ
・神戸市営地下鉄
・名古屋市営地下鉄
走行中に地震が起きたら、そのとき電車はどうなる?
非常ブレーキ・地震の揺れ、そのとき乗客はどうすれば?
運転見合わせ、乗客の救出は?
・車両・線路の被災状況の点検
・乗客の救出
駅構内、駅ホームにいるとき地震が起きたら、そのときどうする?
大津波警報が発表されたら、乗客はどうする?
・駅間に緊急停止している電車の乗客は
・駅構内、ホームに留まる乗客(駅に停車中の電車の乗客を含む。)は
地震の揺れが収まったら自宅に帰れるのか?
・帰宅困難者は、一時滞在施設で待機する
・混乱収拾後、帰宅困難者は順次、帰路につく
外出するときには、普段から心がけたいこと
・防災グッズの携行
・スマホには防災アプリをインストール
まとめ
南海トラフ巨大地震とは?
私たちは、20世紀には阪神・淡路大震災(1995年)を経験し、21世紀になっては東日本大震災(2011年)を経験しました。今世紀には、さらに東日本大震災を上回る巨大地震を経験することになるかもしれません。
それは、南海トラフ沿いの地域で発生するといわれている南海トラフ巨大地震です。
マグニチュード8~9クラスの巨大地震が、
・10年以内の発生30%程度
・30年以内の発生70%~80%
・50年以内の発生90%程度もしくはそれ以上
の確率でもって発生するとされており、刻々とその時が迫ってきているように感じます。
出典:「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和6年1月15日現在)
文部科学省 震調査研究推進本部
★南海トラフとは
地球の表面近くでは「プレート」(地殻)という岩盤のようなもので覆われていて、日本列島は4つのプレートの境界に位置しています。日本列島は「ユーラシアプレート」と「北米プレート」という二つのプレートの上に乗っていますが、この「ユーラシアプレート」の下に海側の「フィリピン海プレート」が少しずつ沈み込んでいます。この沈み込む境界にあたる巨大な海底の溝(水深4000m)が南海トラフです。
巨大地震と大津波は、「フィリピン海プレート」に引きずられて沈み込む「ユーラシアプレート」のひずみが限界に達し、はじけるように跳ね上がる時に発生します。
政府の中央防災会議は、科学的に想定される最大クラスの南海トラフ巨大地震が発生した際の被害想定を実施しています。
この被害想定によれば、南海トラフ巨大地震がひとたび発生すると、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、それに隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れになると想定されています。また、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波の襲来が想定されています。
南海トラフ巨大地震の震度分布(強震動生成域を陸側寄りに設定した場合)
南海トラフ巨大地震の津波高
(「駿河湾~愛知県東部沖」と「三重県南部沖~徳島県沖」に「大すべり域+超大すべり域」を2箇所設定した場合)
出典:国土交通省気気象庁HP
地下鉄で実施されている自然災害対策
本記事は、南海トラフ巨大地震を念頭においているため、想定される被災エリアを走行する地下鉄(大阪メトロ、神戸市営地下鉄、名古屋市営地下鉄)について記載しています。
大阪メトロ
これまでの自然災害の教訓を踏まえ、巨大地震・津波・台風などに対する防災対策を徹底して推進されています。
また、事故・自然災害及び安全輸送に支障を及ぼす恐れのある事態が発生した場合には、自己・災害対策本部を立ち上げ、関係部署が連携を図ることにより、迅速かつ的確な応急処置や復旧に努められます。
①巨大地震への対応
巨大地震による激しい揺れは電車の運転に大きな影響を与えるため、気象庁からの緊急地震速報の展開に加え、基本地震計(3か所)及びエリア地震計(5か所)を設置されています。地震の強さにより3段階の警報レベルを設定しており、警報レベルに応じて列車無線により乗務員に音声で異常を知らせ、速やかに緊急停止等の適切な運転処置を行われます。
➁乗客を次の駅まで確実に輸送
地震発生時に電力会社からの電力供給が途絶えても、駅間にある電車が立ち往生することなく次駅まで運転することができるよう、津波浸水範囲の路線の中で必要な区間に大容量蓄電池を設置されています。
★津波到達までの2時間のうちに、
・乗客の避難を1時間以内
・施設防護を30分以内
・職員避難を30分以内
に完了させることを基本的な考え方として、1時間以内に乗客を次駅まで輸送するために電車の自力走行を可能とする大容量蓄電池を変電所に設置されています。
③耐震対策
巨大地震による地下鉄構造物への被害を最小限に抑えるため、東日本大震災などから得られた知見や基準をもとに、中柱や橋脚の補強、高架橋の落橋防止等の耐震対策に取り組まれていましたが、2022年度をもって計画していた構造物の工事はすべて完了されています。
また、地震の揺れにより高架部において電車が脱線した場合に備え、脱線対策ガード付きまくらぎや脱線防止レールの整備を進めており、2025年度末までに完了される予定です。
さらに、2022年度から、地上車庫や入出庫線で液状化の発生が想定されている場所を対象に、トンネル浮上がりやレールの歪みを発生させないことを目的とした地盤改良等の対策工事を開始し、2024年度末までに完了される予定です。
④津波・浸水対策
2013年8月に大阪府から南海トラフ巨大地震に伴う津波の浸水範囲が公開され、大阪市内沿岸部には3m程度の津波が2時間以内に到達すると想定されています。
このため、乗客の迅速な避難誘導や施設防護に取り組まれており、地下~高架移行区間における側壁や換気口に対してもかさ上げを実施されています。
出典:Osaka Metro HP
「Osaka Metro 2023年度安全報告書」
神戸市営地下鉄
阪神・淡路大震災発生時は、乗客に被害はありませんでしたが、この教訓を活かし、「高速鉄道地震対策要綱」を定め、地震に対応できる体制を確保されています。
①緊急地震速報システムの整備
運転指令所に緊急地震速報システムを整備されたことにより、乗務員に対して地震速報を自動通報できるようになっています。このシステムにより、地震情報を受信時には、走行中の列車を迅速に停止又は減速させ、乗客の安全を確保されます。
さらに、名谷・苅藻両業務ビル地下に設けた地震計により、地震の加速度(ガル)を正確に把握し、地震の加速度に応じた走行速度を運転士に指示されます。
地震計の更新に伴い、従来のガル表記に加え震度も指示できるようになっています。
地震の加速度と震度とが同時に運行に携わる職員に伝わることにより、地震の規模がイメージしやすくなり、乗客の避難誘導などの際に、より適切な行動をとることができます。
➁プラットホーム上屋の耐震改修
駅舎について建築基準法に基づく耐震性が確保されています。
また、建築基準法の適用を受けないプラットホームの上屋については妙法寺駅、名谷駅、伊川谷駅で、令和元~3年度に上屋の耐震改修工事を実施されています。
このほか、駅の吊下げサインについては、平成30 年の大阪北部地震以降、ワイヤーによる補強などの落下防止対策を進められています。大規模リニューアル実施駅を除き、令和5年度に完了される予定です。
③止水板の嵩上げと防水鉄扉の設置
海岸線においては、津波警報発令時には、駅係員が出動し、駅出入り口の止水板を設置するなどして、水の侵入を防がれます。なお、兵庫県が行った南海トラフ巨大地震による津波シミュレーションの結果を受け、想定の高さに満たない止水板に対しては、新たに嵩上げを行い、地下街との接続部分に防水鉄扉を設置されています。
地下街との連絡通路の防⽔鉄扉(海岸線ハーバーランド駅 防⽔鉄扉の操作(海岸線和⽥岬駅出⼊口)
④非常時走行用の大容量蓄電池の整備
大規模地震による津波浸水・広域停電に備えて、海岸線御崎変電所に非常時走行用の大容量蓄電池を整備されています。
この大容量蓄電池は大規模地震による停電発生時でも、列車に走行用電力を供給でき、次駅まで走行させることで、津波到達前により安全・迅速に避難ができることにつながります。
★海岸線は、三宮・花時計前駅(神戸市中央区)と新長田駅(神戸市長田区)を結ぶ7.9kmの路線です。神戸の港湾地域を走行することから、南海トラフ巨大地震が発生した場合、波浸水被害地域に入ると想定されていた「みなと元町」・「ハーバーランド」・「中央市場前」・「和田岬」の4駅について津波浸水対策を施したため、浸水区域外となっています。
しかし、津波が想定外の規模になることも考えられるとして、大容量のニッケル水素蓄電池を御崎変電所(神戸市兵庫区)に整備されました。電力会社からの送電がストップしても、ラッシュ時に10分間は列車を順次走行させることできるため、乗客の避難完了まで最大60分程度と想定されていた避難時間を、最大30分程度にまで短縮できると見込まれています。
神戸市営地下鉄 海岸線の自力走行区間
出典:神戸市交通局HP
「安全報告書2023」
Automotive media Response 2017.11.10
「停電でも走行できる…神戸市営地下鉄で巨大地震対応の畜電池を整備」
リスク対策com 2017.11.10
「津波対策で地下鉄に蓄電池を整備 神戸市営海岸線」
名古屋市営地下鉄
耐震対策として、地下鉄構造物の耐震補強工事を行われています。
令和4年度には4駅及び4区間の工事に着手し、令和5年度は前年度からの工事を継続するなど、1駅及び2区間について、工事を進められる計画です。
出典:名古屋市交通局HP
「市バス・地下鉄 安全報告書(令和5年7月)」
走行中に地震が起きたら、そのとき電車はどうなる?
地下鉄は、都市の中心部を走行してJRや私鉄のターミナル駅を結ぶとともに、郊外の町を結ぶ近距離の交通機関です。地下鉄という名の通り、路線の大部分が幹線道路の地下に構築されたトンネルであり、駅構内やホームも地下にあります。
駅間距離が短く、かつ直線距離も短いため、運行速度は地上を走行するJR在来線や私鉄に比べて速くありません。時速40~50km程度といわれています。また、駅間距離が短いため車両にトイレがありません。
多くの方が通勤やお出かけに利用している電車です。
もし、通勤やお出かけの途中で、大地震が発生したら、電車はどうなるのでしょうか?
以下の説明で、項目の先頭に付けている①から⑥の番号は、事象が発生する順序を示すものではありません。状況によっては同時並行的に、あるいは前後する場合もあります。
①地震を観測すると、指令所は運行している電車に停止を指示する
地震発生時には、沿線に設置している地震計から指令所に送られる震度情報と気象庁の緊急地震速報により震度4以上を検知した場合は、列車無線により音声で全路線の電車に緊急停止警報が流れ、運転士は電車を停止させます。
乗客が受ける衝撃は、非常ブレーキによる衝撃と地震の揺れによる衝撃がありますが、震源地が近い場合は、ほぼ同じタイミングでこの二種類の衝撃に見舞われることになります。
通常のブレーキでは、速度が低下するに伴ってブレーキを緩めるため、減速が滑らかで衝撃も少ないですが、非常ブレーキは、停止するまでブレーキを緩めないので、速度が低下するほどブレーキの効きが強くなり、停止したときの衝撃が大きくなります。
★神戸市営地下鉄の場合
緊急地震速報システムにより、震度4以上の地震予測速報が認められたときは、各電車の無線装置に地震予測速報が自動送信され、走行中の電車は直ちに速度を25 ㎞以下に減速し、次の駅まで走行します。次の駅に到着後は運転指令の指示があるまで待機します。
なお、駅出発中の列車は速やかに停止するともに、停車中の電車はそのまま駅で待機します。
➁地震による揺れが始まる
震源地が近ければ、指令所からの指示により非常ブレーキで電車が減速している段階で揺れが始まると思われます。
③緊急停止後、車内放送がある
「急停車恐れ入ります。只今、非常に大きな地震が発生しましたので緊急停止しました。電車の外は大変危険です電車の外へは絶対に出ないで下さい。」というような車内放送があります。
地下鉄によっては高圧電線が線路脇に設置されているので、勝手に非常用ドアコックを使って線路に飛び降りると大変危険です。停車後は、乗務員の指示に従いましょう。
★実際には車内放送を聞くよりも乗客のスマホが受信する緊急地震速報の警告音が早いと思います。おそらく、車内のあちこちで警告音が鳴り響いていると思われます。
④津波警報が発表される(地震発生から3分後)
気象庁では、地震が発生した時には地震の規模や位置をすぐに推定し、これらをもとに沿岸で予想される津波の高さを求め、 地震が発生してから約3分(一部の地震(注)については約2分)を目標に、大津波警報、津波警報または津波注意報を、津波予報区単位で発表されます。
(注)日本近海で発生し、緊急地震速報の技術によって精度の良い震源位置やマグニチュードが迅速に求められる地震
大津波警報が発表された場合、浸水が想定されている路線・区間の駅間に停車している電車の乗客は、乗務員や応援に駆け付けた駅員の指示・誘導に従い、最寄りの駅まで避難する必要があります。
また駅ホームなどに留まっている乗客は、駅員の指示・誘導に従い、直ちに地上部の安全な場所に避難する必要があります。
★気象庁が発表される津波警報・注意報の種類は次表のとおりです。
種類 | 発表基準 | 発表される津波の高さ | 想定される被害と取るべき行動 | |
数値での発表(予想される津波の高さ区分) | 巨大地震の場合の発表 | |||
大津波警報 | 予想される津波の最大波の高さが高いところで3mを超える場合。 | 10m超 (10m<予想される津波の最大波の高さ) | 巨大 | 木造家屋が全壊・流失し、人は津波による流れに巻き込まれます。 沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所へ避難してください。 |
10m (5m<予想される津波の最大波の高さ≦10m) | ||||
5m (3m<予想される津波の最大波の高さ≦5m) | ||||
津波警報 | 予想される津波の最大波の高さが高いところで1mを超え、3m以下の場合。 | 3m (1m<予想される津波の最大波の高さ≦3m) | 高い | 標高の低いところでは津波が襲い、浸水被害が発生します。人は津波による流れに巻き込まれます。 沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所へ避難してください。 |
津波注意報 | 予想される津波の最大波の高さが高いところで0.2m以上、1m以下の場合であって、津波による災害のおそれがある場合。 | 1m (0.2m≦予想される津波の最大波の高さ≦1m) | (表記しない) | 海の中では人は速い流れに巻き込まれ、また、養殖いかだが流失し小型船舶が転覆します。 海の中にいる人はただちに海から上がって、海岸から離れてください。 |
【警報・注意報と避難のポイント】
震源が陸地に近いと津波警報・注意報が津波の襲来に間に合わないことがあります。強い揺れや弱くても長い揺れを感じたときは、すぐに避難を開始しましょう。
津波の高さを「巨大」と予想する大津波警報が発表された場合は、東日本大震災のような巨大な津波が襲うおそれがあります。直ちにできる限りの避難をしましょう。
津波は沿岸の地形等の影響により、局所的に予想より高くなる場合があります。ここなら安心と思わず、より高い場所を目指して避難しましょう。
⑤大地震の被害により大規模停電が発生し、架線に送電されなくなる
大地震が発生すると、地震の揺れを感知した電力会社の火力発電所は、タービンの損傷を防ぐため運転を自動停止します。発電所が発電を停止すると、今まで均衡していた電気の発電量と消費量のバランスが崩れ、広範囲で停電が発生する可能性があるため、一部地域への送電を自動的に停止して需給のバランスを保ちます。
⑥車内の照明が消え、非常灯に切り替わる
送電停止により停電した車両では、車内の照明が消えて、非常用電源から供給される電力により非常灯が点灯します。非常灯は停電後1時間程度点灯するので、慌てずに行動しましょう。
非常ブレーキ・地震の揺れ、そのとき乗客はどうすれば?
乗客が受ける衝撃は、非常ブレーキによる衝撃と地震の揺れによる衝撃がありますが、ほぼ同じタイミングでこの二種類の衝撃に見舞われます。
通常のブレーキでは、速度が低下するに伴ってブレーキを緩めるため、減速が滑らかで衝撃も少ないですが、非常ブレーキは、停止するまでブレーキを緩めないので、速度が低下するほどブレーキの効きが強くなり、停止したときの衝撃が大きくなります。
地震の揺れによる衝撃は、震度によって
震度5強・・・物につかまらないと、歩くことが難しい
震度6弱・・・立っていることが困難になる
震度6強・・・はわないと動くことができない。飛ばされることもある
という状況におかれます。
①座席(ロングシート)に座っている乗客は
近くに手が届く手すりがあればしっかり握りしめ、なければ、座っているシートの端っこを持って飛ばされないようにしましょう。
➁通路に立っている乗客は
非常用ブレーキがかかると、立っている乗客は前のめりに倒されるような動きになり、満員電車だと将棋倒しになる可能性があります。
・座席(ロングシート)の傍に立っている乗客は、近くの吊皮や手すり、荷物棚を両手でしっかり握り、将棋倒しに巻き込まれないように、できるだけシートにすり寄り上体を窓側に倒しましょう。小さいお子さんがいる場合は、座っている乗客に抱いてもらいましょう。
・吊皮や手すりのない通路の中央部に立っている乗客は、手が届く吊皮や手すりがあれば、先客と取り合いするのではなく、持てるところをしっかり握りましょう。併せて、できるだけ体を窓側に摺り寄せましょう。
③ドア付近に立っている乗客は
ドア付近に立っている乗客は、手すりをしっかり握りしめ、両足で踏ん張りましょう。ドア付近でも通路中央部に立っている乗客は、できるだけドア方向に身を寄せ、将棋倒しに巻き込まれないようにしましょう。
運転見合わせ、乗客の救出は?
緊急停止した電車の運転は見合わせられます。
車両・線路の被災状況の点検
運転を再開するためには、構造物や線路の状態について地震計の影響範囲の全ての区間を係員が確認する必要があります。そのため、運転再開までに相当の時間がかかります。
電車は、停電時でもバッテリーにより一定時間は照明・放送等の機器の作動が可能であり、トンネル内の非常用照明設備も自家発電機により点灯します。
停車中は、勝手に非常用コックを操作したり、ドアや窓から車外に出ないようにしましょう。地下鉄では線路に降りると感電(注)のおそれがあり、かえって危険です。乗務員の指示に従って、冷静に行動しましょう。
(注)地下鉄の電車は、外部から電気を取り入れて走る乗り物ですが、採用されている集電方式が➁の第三軌条方式の場合は、線路に立ち入り高圧線に接触すると感電します。
①架空電車線方式
線路の上空に張られている架線から電車の屋根に取り付けられた「パンタグラフ」を使って電気を取り入れる方式です。
地上を走っている電車のほとんどは、架空電車線による電車ですので、私鉄と相互乗り入れしている路線では架空電車線が採用されています。地下鉄の場合はこの方式のほかに第三軌条方式の電車があります。
➁第三軌条方式
パンタグラフがない地下鉄電車の場合は、車体の下から突き出した「集電靴」により、2本のレールのわきに設置された第三軌条(サードレール)から電気を取り入れる方式です。通常、サードレールは線路の左右どちらかに設置されていますが、駅構内では万一ホームから人が転落した際に高圧線に接触しないよう、ホームと反対側に設置されています。
地下鉄名 | 架空電車線方式の路線 | 第三軌条方式の路線 |
大阪メトロ | 堺筋線、長堀鶴見緑地線、今里筋線 | 御堂筋線、谷町線、四つ橋線、中央線、千日前線 |
神戸市営地下鉄 | 西神・山手線、海岸線、北神線 | ― |
名古屋市営地下鉄 | 鶴舞線、桜通線、上飯田線 | 東山線、名城線、名港線 |
乗客の救出
点検によりトンネルや線路などの安全が確認された場合は、通常であれば最寄りの駅まで運転を再開されますが、大規模停電に伴い架線に給電されない状況では、変電所に設置された大容量蓄電池からの給電により電車が走行可能かどうかによって対応が分かれます。
①自力走行が可能な路線・区間での乗客の救出
変電所に設置された大容量蓄電池から給電された電車は、次の駅まで徐行運転を行います。次の駅到着後、乗客は乗務員、駅員の指示・誘導に従い、安全な場所へ一時避難することになります。
➁自力走行ができない路線・区間での乗客の救出
停電時に架線へ給電するための大容量蓄電池が変電所に設置されていない路線・区間では、電車を降車して最寄り駅まで徒歩で避難することになります。
乗務員や応援に来た駅員の指示に従い、先頭の車両の前部(又は最後尾の車両の後部)にある出口から、非常用はしごでトンネル内に降りることになります。
降車後、駅員の誘導に従い、線路に沿って最寄りの駅まで徒歩で避難します。
トンネル内は非常用照明設備が点灯していますが、非常に暗く、レールやまくら木があるので、足元の注意が必要です。誘導する駅員の指示に従いながら、ゆっくりと歩きましょう。
乗客全員が円滑に避難するためには、乗客であっても、体の不自由な方やお手伝いを必要とされている方々のサポートをすることが必要です。
★地下鉄は、線路の殆どがトンネル構造で側面に降りるスペースが無いため、車両の左右にあるドアから降車しません。
乗務員の指示により、トンネル内を歩いて避難するときは、他の車両は走行を停止しています。また、架線や2本のレールのわきに設置された第三軌条(サードレール)への送電も停止されています。
★トンネル内を多数の乗客が徒歩で避難する場合、トンネルの非常用照明や駅員が携行する懐中電灯だけでは、足元が暗すぎます。
通勤、通学で地下鉄を利用されている場合、万が一に備えて、小型のLEDライト(予備の乾電池を含む)をバッグに入れて携行することをお勧めします。
出典:非常はしごの画像
Osaka Metro HP
「Osaka Metro 2022年度安全報告書」
駅構内、駅ホームにいるとき地震が起きたら、そのときどうする?
地下鉄の駅構内や駅ホームにいるときに地震に見舞われた場合、目の前で火災や水没(津波による浸水の恐れがある場合を含む。)が発生していない限り、地上より地下の方が安全です。
まずは周囲の状況を確認して、シェイクアウト(まず低く、頭を守り、動かない)を基本に身を守りましょう。
①緊急地震速報を受信したり、地震の揺れを感じたら、危険な場所から離れる
駅のホームにいたら、線路に転落しないようにホームの端から離れ近くの柱付近へ移動し、揺れが収まるまで様子をみましょう。
天井から照明設備や看板などが落下する危険に備え、持っているカバンなどで落下物から頭部を守りましょう。
立ったままだと転倒する恐れがあるため、頭部を守りながらその場にしゃがんで揺れが収まるのを待ちましょう。
➁地震の発生と注意喚起の放送がある
「お客さまにお知らせします。只今、強い揺れを感じる地震がありました。そのため、停電が発生しています。
只今より駅職員が構内及び避難口の点検を行います。駅構内の安全状況が確認できるまで、余震に備え頭部を覆い、低い姿勢でお待ちください。」という注意を喚起する構内放送が行われます。
③揺れが収まったら、地上に脱出し安全な場所で一時退避する
揺れが収まったら、駅構内及び地上部の災害状況の確認後、乗客はより安全な場所へ誘導されます。乗客は、避難場所等への避難が可能となるまでの間、一時、案内された場所で退避することになります。
もし地下の駅にいるときや夜間に停電しても、非常灯が点灯するので真っ暗になることはありません。慌ててパニックにならないことが大切です。地下の駅のような閉ざされた空間で、大勢の人がパニックになって一つの出入口に殺到すると二次災害が起こります。冷静に行動しましょう。
④避難所の受入が開始されたら、避難所に避難する
自治体の避難所の受入体制が整うと、避難所に案内・誘導されるので、構内放送や駅員の誘導に従って行動しましょう。
大津波警報が発表されたら、乗客はどうする?
地下鉄の走行エリア(注)に大津波警報が発表された場合、駅間に緊急停止している電車の乗客、駅構内、ホームに留まる乗客(駅に停車中の電車の乗客を含む。)は、駅員、乗務員の指示・誘導に従い、速やかに避難することになります。
(注)津波予報区単位
大阪メトロ・・・・・・大阪府
神戸市営地下鉄・・・・兵庫県瀬戸内海沿岸
名古屋市営地下鉄・・・伊勢・三河湾
★駅員は、身体の不自由な方、妊婦、お年寄りや子供などには配慮されますが、ラッシュ時などでは乗客の人数に比べ駅員の人数は圧倒的に手薄になります。乗客全員が円滑に避難するためには、乗客であっても、体の不自由な方やお手伝いを必要とされている方々のサポートをすることが必要です。
なお、避難する際にはエレベーター・エスカレーターは使用できません。
駅間に緊急停止している電車の乗客は
変電所に設置された大容量蓄電池から給電により走行可能な電車は、次の駅まで徐行運転するので、到着後は降車し、駅構内に留まる乗客と同様、駅員の避難誘導に従い駅外に脱出し、案内される津波避難ビル及び地上部の「高い」場所(建物の2階相当以上)へ避難することになります。
また、走行できない電車の乗客は、乗務員や応援の駅員の指示・誘導に従い、降車し、最寄りの駅まで線路を歩いて避難することになります。
駅構内、ホームに留まる乗客(駅に停車中の電車の乗客を含む。)は
駅構内やホームに留まる乗客は、駅員の避難誘導に従い駅外に脱出し、案内される津波避難ビル及び地上部の「高い」場所(建物の2階相当以上)へ避難することになります。
地震の揺れが収まったら自宅に帰れるのか?
地震の揺れが収まると、自宅に残された家族や家屋が心配で、早く自宅に帰りたいという気持ちに駆られると思われます。
大勢の人が一斉に徒歩で帰宅しょうとすると、道路は混雑し、救急・救命活動、救助活動、消化活動、緊急車両の通行の妨げになり、応急活動に支障をきたす懸念があることから、一斉帰宅の抑制が図られます。
帰宅困難者は、一時滞在施設で待機する
地震発生直後は、地下鉄だけでなくJR、私鉄などの公共交通機関では、運転再開に向け緊急の安全点検が行われます。緊急点検や被災の状況によっては応急復旧工事などに相当の時間を要します。運転再開の目途が立っていない段階においては、遠距離を徒歩で帰宅する帰宅困難者(注1)の一斉帰宅を抑制するための周知や呼びかけが行われます。
同時に、帰宅困難者である利用者は一時退避場所(注2)へ案内されます。利用者は、一時滞在施設(注3)の受入が開始されるまでの間、一時的に案内された場所で待機することになります。
一時滞在施設の受入が開始されると、一時滞在施設への案内・誘導が行われます。利用者は、地震発生直後の混乱が収拾するまでの間、案内された一時滞在施設で待機することになります。
(注1)帰宅困難者とは
地震発生時に外出している者のうち、近距離徒歩帰宅者(近距離を徒歩で帰宅する人)を除いた
・帰宅断念者(自宅が遠距離にあること等により帰宅できない人)
・遠距離徒歩帰宅者(遠距離を徒歩で帰宅する人)
が帰宅困難者として扱われます。
(注2)一時退避場所とは
災害時に行き場のない人が、帰宅手段の確保(短時間で交通機関が復旧する場合)や一時滞在施設等の受入が開始されるまでの間に一時的に退避する場所(緊急避難場所等)をいいます。
具体的には、大規模地震の余震などから生命、身体を守ることができるターミナル駅周辺等のオープンスペース、公園や大型駐車場など屋外空間が想定されています。
なお、京都市では「緊急避難広場」、大阪市では「情報提供拠点」と呼ばれています。
(注3)一時滞在施設とは
一時滞在施設は、都道府県や市区町村から帰宅困難者等を一時的に受け入れることについての指定を受けるか、又は受け入れることについて協定を締結した施設をいいます。国の機関、都道府県、市町村が所有する施設だけでなく、民間事業者の協力により提供された施設もあります。開設期間は、受け入れた帰宅困難者等が安全に帰宅開始できるまでの間(原則として発災後3日間)の運営を標準とされており、滞在中は水、食料、毛布などが提供していただけます。
出典:内閣府 防災情報のページ
大規模地震の発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン
混乱収拾後、帰宅困難者は順次、帰路につく
一時滞在施設に留まった帰宅困難者は、混乱収拾時期以降、原則徒歩で帰宅することになります。
①自宅までの距離が徒歩帰宅可能な距離内である帰宅困難者
一時滞在施設や大規模集客施設に留まった帰宅困難者のうち、自宅までの距離が徒歩帰宅可能な距離内である帰宅困難者は、混乱収拾期以降、原則徒歩で帰宅することとなります。沿道に「災害時帰宅支援ステーション」があれば、水道水、トイレ、休憩の場を提供していただけます。
➁遠距離のため自宅まで徒歩で帰宅できない帰宅困難者
被災地内の公共交通機関は運行停止していても、安全確認が取れ次第、運行可能な折り返しポイントまで運行が再開されます。
一時滞在施設や大規模集客施設に留まった帰宅困難者のうち、遠距離のため自宅まで徒歩で帰宅できない帰宅困難者は、折り返しポイントまで徒歩で移動し、運行再開した公共交通機関を使って、帰宅することになります。
折り返しポイントまでの沿道に「災害時帰宅支援ステーション」があれば、水道水、トイレ、休憩の場を提供していただけます。
③自力での徒歩帰宅が困難である帰宅困難者はバス等の代替輸送により搬送
混乱収拾時以降、一時滞在施設等に留まった帰宅困難者は、順次、徒歩で帰宅することになりますが、自力での徒歩帰宅が困難な方に対しては、道路啓開等により道路の確保がなされた後、バス等の代替輸送により、自宅まで円滑に帰るための支援が行われます。
★「災害時帰宅支援ステーション」は、災害時に、徒歩帰宅者に対し、水道水、トイレ、沿道情報等の提供、休憩の場の提供を行い、徒歩帰宅者が円滑に帰宅できるよう可能な範囲で支援をしていただく施設です。
沿道にある公共施設のほか、コンビニ、ファミリーレストラン、ガソリンスタンドなど民間事業者の店舗の協力により開設されます。
外出するときには、普段から心がけたいこと
防災グッズの携行
外出される場合は、日帰り、宿泊にかかわらず、非常時に役立つ次のようなグッズを普段から携行する習慣を身につけておきましょう。万が一の場合、必ず持っていて良かったと思われます。家族で用意するのではなく、幼児は別にして各自が携行することが基本です。
スマホには防災アプリをインストール
地震、台風の発生や火山の噴火など災害に関する警報、緊急情報がプッシュ通知されるアプリをインストールして普段から活用しておきましょう。無料のものでも十分使えます。
ジャンル | 主な機能 |
ニュース・警報 | 緊急地震速報、津波警報、自治体が発令する避難情報などのプッシュ通知 |
ハザードマップ | 全国の自治体が発行したハザードマップへ簡単にアクセス |
避難所ガイド | 現在地周辺の避難所・避難場所を自動検索して、施設までのルート案内 |
帰宅支援 | あらかじめ必要な地域の地図をダウンロードしておくと、通信障害でも使えるオフライン地図 |
家族の安否確認 | アプリをインストールしている家族同士が、GPSの位置情報により居場所を自動的に共有し、さらに安否まで共有 |
救急・救命 | 近隣のAED所在地が分かるアプリと音声と動画による救命措置のナビゲートするアプリ |
緊急対応 | 緊急時に使える『トイレ』を簡単に、すぐに探せるマップ型ナビゲーションアプリ |
運行情報 | 電車の運休、遅延、運転見合わせ、運転再開などの最新の鉄道運行情報をプッシュ通知 |
道路交通情報 | 高速道路や一般道路の交通規制、渋滞情報、通行止め解除のときにメール受信 |
防災アプリについての詳細は、下記の記事をご参照ください。
【防南海トラフ大地震】災害・緊急時に役立つスマホアプリは?
まとめ
本記事では、地下鉄の乗っているときに巨大地震に遭遇したら、どのような事態になるのか、どのような行動をすることになるのかを解説しました。
災害に備えるとは、何もグッズを揃えるだけではありません。災害時の状況を想像して、その時どうするか?とイメージトレーニングしておくことも大事です。心構えができておればパニックに陥ることが避けられます。
新幹線、在来線に乗っているときに地震が起きた場合の記事については、下記の記事をご参照ください。
【南海トラフ大地震】新幹線に乗っているときに地震が起きたらどうする?
【南海トラフ大地震】電車(在来線)に乗っているときに地震が起きたらどうする?
飛行機に乗っているときに地震が起きた場合の記事については、下記の記事をご参照ください。
【南海トラフ大地震】飛行機に乗っているときに地震が起きたらどうする?
南海トラフ巨大地震の備えに関する総合的なまとめ記事については、下記の記事をご参照ください。
【南海トラフ大地震】防災グッズと日頃の備えで命を守るサバイバル防災術
南海トラフ巨大地震に備える非常食などの防災グッズの詳細については、下記の記事をご参照ください。
【南海トラフ大地震】まず1週間分備蓄!食べ慣れた非常食を厳選
【南海トラフ大地震】厳選!本当に必要な防災グッズ(備品・消耗品)
南海トラフ巨大地震の備えとして、アウトドアグッズ、ポータブル電源の購入を検討されている場合は、下記の記事をご参照ください。
【南海トラフ大地震】停電時に役立つアウトドアグッズ
南海トラフ巨大地震の備えとして、ウォーターサーバーの導入を検討されている場合は、下記の記事をご参照ください。
【南海トラフ大地震】ウォーターサーバーは停電しても常温の水が飲める
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